中小企業のための成功するM&A_まずはこれを押さえる

中小企業にとって、M&Aは事業拡大にとても有効な手段です。M&Aを活用している中小企業も増えてきました。しかし、基本原則を押さえないままM&Aをすると残念な結果になる事が多いものです。

企業がM&Aを考えるときに知らなくてはいけないことや注意点は多くありますが、今日はまずは押さえるべき原則について書いてみたいと思います。言い換えれば、最低これらの要素を考慮することで、中小企業のM&Aは、それほど大きく外さないだろうということです。

中小企業のM&Aを成功裡に終わらせるために次の4つのフェーズに分けて考えていきましょう。

①まずは、M&Aを行なう前の日頃の経営の話です。

自社の経営において、会社の目的、目標、理念、経営方針などが整備されていますでしょうか。

目的は、意図/存在意義/ミッション/志

目標は、ゴール/ビジョン/強い想い

理念は、行動指針/コアバリュー/信条/価値観

経営方針は、戦略

と言い換えることができます。ご自身でしっくりする言葉を選びましょう。

中小企業において、これらの要素を経営者自らしっかり経営計画などに落とし込めている会社はそれほど多くありません(実感としては、中小企業の10%位です)。M&Aをやりたいという前に自社が何を志向していて、どんな商品で売上を上げたいか、どういう組織を維持したいか等の考え方を明確に持っておくが重要です。自分の船がどこに向かうかをステークホルダーに説明できないような経営者が他の会社のマネジメントなどできるわけがないのです。

②次にM&Aの相手先を選定する前にしておくべきことです。

どんな事業を購入するか自社のM&A戦略の方向性をある程度決めておきましょう。

M&Aによって、どのように自社の領域を増やしていくのかです。既存商品あるいは既存顧客ゾーンの深掘りでしょうか、新規商品開発でしょうか、新規顧客ゾーンの開拓でしょうか、あるいはその両方でしょうか。水平展開でしょうか、川上あるいは川下などへの垂直統合でしょうか。M&Aを行うことによって、①にどのように貢献していくのかあるいは貢献しないのか、ということを分析しておきましょう。そして、それを仲介会社やファイナンシャルアドバイザリー会社に伝えて、活動していただきましょう。

次にM&A後の売り手企業についてどのようなふるまいが起きてそれに対してどのような対応の方法があるのか、をあらかじめイメージトレーニングしておきましょう。思い通りの現実になることはまずないと考え、バックアッププランまで考えてシミュレーションしておきましょう。想定外事象の数を下げておく。備えあれば憂いなしです(言い換えれば想定外は常に起きます)。

付言しておきますと方向性を決める際にM&Aの相乗効果(シナジー)を織り込みましょうとおっしゃる方がいらっしゃいます。M&A後、増える顧客に対して売上をより上げられるもしくは重複するコストを削減するなどといったことです。これらについてあまりおめでたいシナリオは描かないことです。対象事業を外から見ているだけで、プラスの想定を数字に織り込むことは時機尚早に思います。仮にシナジーが全くなかったとして、この事業の価値を上げていくには?という観点で進めていきましょう(シナジーというのは狙って得られたというより、結果としてシナジーがあったというような状況の言葉と思っています)。

③そしてM&A実行時に考慮しなければいけないことです。

M&Aでは、相手先のトップの方との面談を早めに行います。そしてお互いが話を前進したいとなったら、買い手側はデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスというのは、買い手企業が実施する売り手企業の調査のことです。それには、外部の専門家を活用します。弁護士、社会保険労務士、司法書士、税理士、不動産鑑定士などです。会社にはすでにお付き合いのある専門家もいらっしゃるかと思いますがデューデリジェンスのメンバー選定時には、現在お付き合いしている専門家を活用しようという前提に立たないことです。通常業務に強い専門家とM&Aを得意とする専門家は、全く違うものだと認識してください。日頃、血液検査をしてアドバイスをしてもらっている近所の医院に脳外科手術は依頼しないと思います。これらは全く違う世界なのです。

ではなぜ、旧知の専門家に頼むのか。大きい理由の一つが調査にお支払いする報酬額を抑えようとするからです。M&Aを専門とする外部の専門家は、総じて高額報酬を払うことになります。買い手経営者は、なんとか買い値を下げたいと思うでしょう。しかし、それをケチって専門家の知識不足から発生するミスは、あとあと高くつくものになってしまいます。M&Aに強い専門家に頼みましょう。個別に専門家をご存じない場合は、M&Aの仲介会社やファイナンシャルアドバイザリー会社に相談しましょう。彼らは専門家をよく知っていて、専門家間の調整もしてくれます。

上記のほかに、M&Aの進捗管理を慣れない経理部長などに任せることにも注意が必要です。通常のオペレーションをやっている社内人材にこのように極めて特殊で再現性がなくてカバーする領域が広いイベントを任せてはいけません。経験不足は否めません。経営者自らが直接仲介会社等と相談しながら、社内のとりまとめの陣頭指揮を執る覚悟を決めて下さい。人に任せて後悔するよりは、自身でやって失敗したら反省してください。

デューデリジェンス時に気を付けるべきことがもう一つあります。それは、デューデリジェンスは、限られた時間の中ですべてのリスクを抽出できないと腹をくくることです。もとよりデューデリジェンスは、M&Aの成否を決める重要なプロセスですから丁寧な対応をするものです。しかし時間に限りがあるので、売り手と買い手の間に一定の情報非対称性は残るものなのです。デューデリジェンスを実施しても不安材料が残る場合、それらとどう付き合っていくかという考え方に切り替えてください。リスク怖い怖いという思いが離れないのであればM&Aはおやめになった方がよいです。

④最後にM&A後の対処方法についてです。

よくPMI(ポストマージャ―インテグレーション)と言われ、M&A実施後に買い手企業が売り手企業との間で経営統合(理念・戦略の統合)、業務統合(業務・組織の統合)、意識統合(企業風土や文化の統合)等を行なおうとするものです。しかし、中小企業の場合は、統合(インテグレーション)ありきで考えないようにしましょう。買い手企業の中には、購入後すぐに売り手企業を都合のいいようにいじる傾向があります。購入後100日以内に統合などと言われることもありますが、それは業者の都合です。そもそもPMIは業者の仕事ではありません。経営者が主体的に行うものです。デューデリジェンスをしても購入前では売り手企業の人材、企業風土などの全体を把握することを難しいものです。購入後、まずは観察すること、状況を把握することです。バイアスをかけないでニュートラルな気持ちで観察することに徹しましょう。慌てて効率化などを推進するとかえって事業や組織のいいところを棄損する場合があります。観察の後、ある程度将来の景色が見えてきてから方針策定でも遅くありません。購入したその事業を変えずにあえてそのまま活かすことがあってもいいのです。ただし、積極的に観察するのであって、放置する(何もしない)ということではありませんので付言しておきます。

M&Aを結婚になぞらえる方もいらっしゃいます。名字(株主)が変わっただけなのに、相手から急にあれしろこれしろと指図されて、相手の都合ばかり主張されたら気にいらないですよね。これから新しい生活を共に作っていくという取組姿勢がなければ、名字が変わったほうはなかなか能動的に動いてくれないということはお分かりですよね。

以上4つのフェーズに分けて押さえるべき原則を書きました。まずは、これらの考え方に則って各フェーズの各論に落とし込んでいくと大きくぶれることはないように思います。特に中小企業は、人材不足のためM&Aをしようとしても各フェーズの実行レベルが低くなりがちですがスタッフや外部の専門家に丸投げしないで、経営者が主体的にかかわっていくことが重要です。中小企業にとってのM&Aというのは、経営者(株主)の仕事なのです。

スモールコングロマリットの勧め

コングロマリットとは、それぞれに直接の関連をもたない複数の事業体を傘下に治め、多角的経営を行なう複合企業体のことです。中小企業が発展していくにあたり、このような手法を用いることができるのかということを考察します。

企業の存在意義は、営業利益をだすこととそれが継続できるかということの二つに集約されます。この二つを満たすために、いくつかの事業を文鎮型の企業群にすることによって、経営していこうということをコングロマリット経営と言い、それを中小企業にも活用しようとする試みをスモールコングロマリット型経営と呼んでいます。

既に二つ以上の事業を一つの企業で持っているならば、あえて会社を分け、事業会社群と一つの親会社に分けます。あらたに事業を始めようもしくはM&Aで取得しようということであれば、子会社を設立してそこで事業を開始しようということです。

会社を事業単位に分けることによって、事業≒企業となります。事業というのは、その企業の主たる事業のことです。では、企業と事業の差分があるとすればそれは何でしょうか。それは、事業以外で企業が行う活動のことです。これは管理業務のみならず、戦略策定や金融機関対応など事業の専門家ではできない高度な活動も含みます。わかりやすく言えば事業の責任者はCOO、企業の責任者は、CEO(およびCFO)といったところでしょうか。

では、企業を事業実体に合わせることによるメリットは、何でしょうか。

一つ目です。いくつか事業を束ねると事業以外の管理業務、経営業務が増えてきます。事業間の調整、複数事業にまたがる人員の管理、部門毎の数値管理などです。一事業の企業であれば、これらの管理負担はそれほど高くありません。事業を分社化しても親会社とのやり取りがあるので、管理負担は減るものではない、というご意見もあります。しかし、親会社の管理業務を事業会社に対するサービスととらえれば、管理業務が親会社の事業となり、親会社が各事業会社から報酬を収受できるようになります。子会社も社内ですべての管理業務を賄おうとすると管理業務のコストが重くなりますので、それは避けたいと考えます。したがって、親会社に管理業務を外注するのが合理的となります。ただし、最近は管理業務を専門に請け負う機能提供会社もあり、第三者に発注したほうがコストがかからないなら第三者に発注してください。

二つ目は、人事についてです。事業を一つにしてしまえば、ある専門領域を経営できるCOOをグループ内あるいはグループ外から見つけるのは、比較的容易です。これが複数事業にまたがる経営者を探すということになると急激に難易度は上がります。日本では、CEO機能を持つ人は、COOのそれと比してとても少ない印象です。また、COOは事業の責任者である事業本部長とは違います。いくら事業規模が小さくてもCOOは、部門長ではなく経営責任を負うのです。そこに重みややりがいの差があります。ここにも分社化のメリットがあります。

三つ目として金融機関対応についてです。こうして一点集中の事業の企業体になれば、金融機関からみてもわかりやすい企業にみえます。いろいろな金融手法があるといっても、現時点で金融機関は、事業に融資するのではなく企業に融資するので、金融機関から見てわかりやすい企業であることは大事です。複数事業を行なっている企業が新規事業のための融資を申し込んでも、実際にはその資金がどの事業に使用されたかは不透明です。借りる側も貸す側も融資の意図がぼやけていきます。親会社の保証など追加的な手続きを求められることもあるでしょうが、それでも融資対象が一事業というのは金融機関にとっても、仕事が楽です。

ちょっとイメージしてみてください。事業が違うからと言って、1社で10事業の資金をそれぞれ借りるのは難しいですが、10社それぞれが融資を受けるのは可能と思います。

(事業会社がまだ金融機関から融資を受けられるような状態でないときに親会社の資金を子会社に貸し付けるケースがあります。こういう時は他社への融資となるので、貸付金には利息が発生します。こういうことも企業の正確な損益構造の把握のためにもきちんと管理しておくことが重要です。)

最後ですがこれが最も重要です。スモールコングロマリットは、マクロのリスクを減らすことにプラスに働く企業体であるというメリットです。次のような事業体をイメージしてみてください。

①一企業一事業で10億円の年商

②一企業十事業で10億円の年商

③十一企業(親会社があるため)十事業で10億円の年商

事業の継続が企業の存在意義だと申し上げました。継続企業となるためには利益をあげることと共に様々なリスクを回避することも経営者の重要課題です。特にマクロリスクは、企業規模にかかわらず、ひとたび受ければその影響は大きいものとなります。一部の資金を膨大に抱えた企業以外、企業単独ではどうにも太刀打ちできない事象です。マクロリスクには、大きい国政転換、戦争、金融危機や新型コロナなどがあります。

では、上記①②③についてコロナを例にどんな状態がありうるのかその可能性を比べてみましょう。

事業にとって、コロナが追い風なのか逆風の事業なのかに一番大きく左右されるのは、①になります。中小企業が中堅企業へと規模が拡大していく過程で、①のリスクは高まります。放っておいても年商がどんどん伸びてしまうような事業は別として、スモールコングロマリットでは、あえて企業の規模を追求しない手法を取ることによってマクロリスクを回避しようとします(一つ一つの事業は、もろにその逆風をかぶることは規模によらず十分あり得ますが)。

次に②と③の違いを見ていきましょう。事業全体が追い風か逆風かによって受けるリターンとリスクは同じです。しかし、②の形態ですと事業毎の実態を把握するのが難しいです。事業部制を敷いて、厳格な数値管理していければ実態を把握することは可能ですが、それこそ高度な知識を持つ管理担当者が必要になります。銀行ローンの使途内訳はどうするのといった問題も発生します。

また、事業の先行きが不透明で事業を清算することを決めた場合に、③ですと比較的その判断は容易なものになります。当該事業ことだけを考慮すればいいからです。先ほど申し上げたように②は、事業の清算を判断するために実態を抽出することすら困難です(判断しあぐねて時間だけが過ぎ去ります。その間に他の事業も棄損し始めます。)。

このように各事業を別々にポートフォリオとして管理すれば、事業の開始、終了などの意思決定が容易になります。

ところでスモールコングロマリットのデメリットは、何でしょうか。上場などを目指すため、企業当たりの事業規模の拡大を志向するような場合は、向かないでしょう。また、企業毎にかかるコストは、企業の数だけかかりますので、その分増額となります(事業構造もシンプルなり、それぞれの企業の目的目標も明確になります。より利益を追求しやすい企業体になることで増分のコストを十分賄える収益が得られるものと思っています。)。

最後にスモールコングロマリット体制を敷く際に気を付けるべきことを挙げます。親会社が子会社を支援する、方針などの策定をリードする、高度な経営判断をするといった機能を発揮できないと親会社がただのコストセンター企業になります。各事業経営者では判断できない経営判断をするのが、親会社CEOの重要な仕事になります。

また、各事業は事業を一点に集中していますが、親会社が各事業間の連携や各事業の強みを把握してシナジーを生む橋渡しをする機能を持っていなければいけません。このような活動ができないと多角化経営がうまくいかなくなります。うまくいかないのはたいてい親会社の責任です。

繰り返しになりますが一事業に絞って企業体を小さくしておくことで、企業経営がしやすく、人が調達しやすく、始めやすくやめやすい、ということであれば、中小企業のオーナーでも事業数を増やしやすいのではないでしょうか。一つの事業を大きくしていけば企業規模に応じた管理、人材が必要になりますが、事業は小さいまま企業数を増やすのですから、企業規模拡大に応じたさまざまな経営手法を工夫しなくてよくなります。

事業のPDCAを早く回すことによって継続して利益を出す事業を模索していくこの手法は、先行きの不透明さが増す時代にふさわしい手法と思います。

業務管理の効率を上げることだけで企業の価値はあがるものなのか

前回のブログで、地方企業で儲けるためには、①マーケットをしっかりつかめる商品があり、②事業運営/業務管理を効率化していく必要がある、と述べました。

「業務管理の効率化」とは具体的にどのようなことをするのかというご質問をいただきました。本日はそのことについて四つ書いてみたいと思います。

  まず一つ目として、「経営者が経営方針を作成して社内でシェアしていること」があげられます。3年の中期経営計画を作成し、さらにそこから今年1年で何をしていくらの利益を上げるのか、という目論見を社内でシェアすることです。

最近は、環境がめまぐるしく変わるので、3年先の計画など意味はなさない、とおっしゃる方は多いです。でもそれは、やらない人の言い訳に聞こえます。面倒だからではないでしょうか。環境が変われば、最初の設定を見直せばいいだけです。PDCAを速く回すようなものです。事業経営というのは、ある仮説に基づいて実行し、間違えていればどうにかして修正すればいいのです。作成当初の段階では、精度よりどちらに向かうかという方向性を共有することがとても大事です。数値内容がどうでもよいとは言いませんが、まず数値を伴う方針が有ることが重要なのです。

次に二つ目としては、その経営計画に基づいて事業推進するので、「作成した予算に対して実績がどうだったかを都度検証すること」が必要になります。PDCAのCですね。軌道修正を迅速に行うためにも、仮説と実績の比較チェックが大事です。必ず経営陣はしっかり時間を取って、このミーティングを毎月実施する必要があります。

三つ目として、その予算と実績を比較する際に「事業毎に損益を把握できるようにしておくこと」ということです。そのために毎月事業部門毎の損益を作成しましょう。当社は一商品しか扱っていないので、部門管理をしても煩雑なだけである、という主張もあります。しかし、そんなことはありません。一つの事業であっても、事業部門と共通(あるいは管理)部門の最低2つの部門からなります。

経営者の報酬は、その事業に適した金額になっていますでしょうか。高額報酬を取るのは構いませんが、特定の事業に貢献した経営者報酬と会社全体のマネジメントにかかる経営者報酬は、分けて考えるべきです。また、経理、人事などの管理コストも特定事業の損益からはずしたほうがよいです。事業の損益の実態をつかみにいきましょう。

四つ目としては、「過去と未来の資金の管理を継続して行うこと」です。これも以前、ブログで書いたと思いますが資金の管理はとても大事です。今いくら資金があるのか、どのように資金が回っているのか、経営方針を実行するとどのような資金状況になるのか、ということを作成しておく必要があります。こちらも毎月、作成してミーティングで活用します。

業務の効率化を主に数値管理の側面から書きました。これらの方法論を持ち込めば、会社の方向性が明確になり、資金手当て、人の手当ても明確になっていきます。数字を認識しながら経営することによって、「経営者の打ち手」の精度もあがり、結果として企業の価値はあがります。これだけで企業の価値が上がっていくのを何社も見ています。

会社内に上記のような経理機能がない場合、2,3については、顧問の税理士であれば精通していますので聞いてみてください。税理士は、1はあまり得意でないですし、そもそも経営者がこれを考えるところです。1をやりながら2,3について支援してもらうのがいいでしょう。

地方企業が元気になる方法

日本の人口が毎年約50-60万人ずつ、減少しています。
鳥取県の人口が約56万人だそうですから、今後も毎年このくらいの規模で減少していくでしょう。減少するにつれて、より都市部への人の移動が予想されますから地方でビジネスをしていく上では、益々厳しい環境になっていきます。

ところで、私は、地方企業の事業再生に積極的にかかわるようにしています。地方企業の再生支援や地方企業の譲渡候補があれば、譲受することを前向きに検討します。
上述したように中長期でみれば、人口減少社会は、ますます都心部への流れを加速しますから、地方のマーケットは縮んでいくと考えられます。
しかしながら、それは徐々にであり、現時点ではそこまで中長期で考えなくてもよい地域も存在します。内閣府が「県民経済検査」という統計を発表しています。これによれば県内総生産が増加している地域も散見されます。

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/main_h28.html

地方であっても、一定レベルの経済圏を構成している地域でナンバー1(かナンバー2)を取れる事業をみつければ成長の可能性はあるということが推定されます(都市と隣接する地域が狙いどころかもしれません)。

また、地方には非効率的な事業運営をしているところがあり、それが改善できるかどうかを考えてみます。ブランド構築、営業支援など外部機能の積極活用、人事、経理、資金繰りの効率的な方法、早期の資金回収の手法などを投入できるかを見ていきます。都市経済圏では、このような機能を提供する会社が多いのですが、地方では簡単にそのような提供会社を見つけられない地域もあり、従来の方法で事業をしています。このような企業では、外部機能を導入すれば利益の上昇余地はあります。
(業務の効率化を推進することは利益向上の観点からは好ましいのですが、これは機械的に進めればいいというわけではありません。多くはその効果が人的リソースの削減としてあらわれるからです。特に地方では人事的なつながりの濃いケースも多いでしょうから、ある程度雇用を維持しながら会社の運用効率を上げるというバランスが経営者に求められます。)

つまり、①マーケットをしっかりつかめる商品があり、②事業運営/業務管理を効率化していくことで、しっかりやれば、十分地方のマーケットでも成功できるのです。

ところで前述したように地方には、機能提供会社が少ないということもありますがそれだけでなく、特に中小企業にとって支払う報酬が高額になるという問題もあります。
私は、その溝を埋めてくれる可能性が高いのが地域金融機関と税理士だと思います。彼らは、情報の取り方も知っているし、やろうと思えば調整機能を果たすことができます。また、基本的には優秀な方たちなので、一旦手法を覚えれば、活躍されるでしょう。
特に地域金融機関は、その地域内だけで何とかしようとするのではなく、地域外と積極的に連携させることで、企業への有効なお手伝いができると思います。

M&Aの報酬の支払方法について

M&Aに取組む企業が増えてきました。今日は、基本的なM&Aの報酬の支払方法について説明します。

会社の売買が成立し、それをM&Aを扱う会社から紹介された場合には買い手も売り手も一定の報酬をその会社にお支払いします。支払方法は、大きく二つにタイプに分けられます。

アドバイスをもらいながら着手金や定額顧問料など一定金額を紹介会社に払い、M&Aが成立したら、成功報酬を払う「リテイナー型」と、もうひとつは完全成功報酬制といって、M&Aが成立した場合に一括で支払う「仲介型」があります。

一見すると完全成功報酬制の方がいいように思います。いろいろ動いてもらったけど、最終的に成立しなかった場合には、支払わなくていいからです(活動にかかった費用などは負担するのが通例ですが)。

しかし、成功するまで報酬を支払わなくていいということは、仲介会社は案件の不成立が続けば、いつか立ち行かなくなるということでもあります。仲介会社が案件を成立させようというのが存在価値や目標になっていることは構わないのです。が、お客様に対する満足度とどう折り合いをつけるのでしょうか。買い手の会社がなかなかいい案件に出会えず、何度もやり取りしているなかで、そろそろ成立させなきゃというような余計なプレッシャーを仲介会社に対して感じ始めたら、本末転倒です。

一方で、リテイナー型では、案件が成立しようがしまいが契約している間は、一定の報酬額を払います。会社は、ターゲットとなる企業の選定や調査、業界分析や競合分析などをお願いすることで、よりM&Aの成功確率をあげることができます。仲介型の会社では、このような分析サービスをしません。

調査や分析は、自社スタッフでやれればそれでよいですが、中小中堅企業ですとなかなかそのような機能を持ち合わせているスタッフはいません。まだM&Aに慣れてない会社の経営者が社内のスタッフに任命して、M&Aを行なおうとする会社もありますが、それは止めたほうがよいです。一般に事業法人では、業務を効率化しようとするので、逆に柔軟に活動することに慣れていません。日常業務ではないM&Aを慣れていない社内の人材で取り組もうとすると無理が出てきます。ここは、ひとつお金をしっかりかけて、外部の機能を活用しましょう。

こうしてみるとM&Aの進め方(または、もっと前の段階からそもそも自社にとってM&Aが有効な戦略かの判断)からアドバイスを受けたいというような方は、リテイナー型をお勧めします(既にM&Aを複数回経験されていて、ノウハウが自社内に蓄積している場合は、仲介型の会社を活用してもいいでしょう)。

ただし、M&Aアドバイザーの実務は、多岐にわたりますし、人によりかなりスキルセットにばらつきがある業界ですので、レベルの高いアドバイザーを見つけることが極めて重要になってきます。

また、仲介型には別の問題もあります。これについては、別途書きたいと思います。

飲食事業がうまくいかないのはコロナのせいなのか。

再び、飲食業を中心に緊急事態宣言が出されました。

すでに昨年末、アルコールを提供する外食産業は、忘年会シーズンを我慢し、年明けて緊急時代宣言が1ヶ月とのこと。おそらくこれで息の根が止まる事業者は、増えると思います。飲食業に従事している私としても悲しいです。

ただ飲食業の不調は、コロナのせいないのかどうかを客観的に見ておく必要はあります。今日は、飲食業のこの悲惨な状況はコロナがなかったらなかったのだろうか、ということを考えてみます。

コロナ禍といわれる前、2019年に世の中の景色を見ていて思ったことがありました。

一つは、キッチンカーのビジネスが急激に増えたことです。屋台ビジネスです。大きく飲食店を構える前に少額のコストで販売してみるこの方法論は、ありです。

この手法に問題はないのですが一方で、出店コスト、家賃などのランニングコストあるいは集客のためのコストなどが高すぎて固定店舗が出店できないというのが現実なのです。計算が合わない。また労働力もかぎられていて、就労する人が集まらない状況も続いていました。

もう一つは、サブスクリプションビジネスが飲食事業でも見られ始めたことです。近年はおもに動画配信サービスや音楽配信サービスで知られ始め、「Apple Music」や「Netflix」などが有名ですね。サブスクリプションモデルはデータやソフトウェアを利用するといったデジタル領域で広まりましたが、最近は洋服や家具、車、サプリメントや食品など、非デジタル業界の製品にもサービスが増えてきました。

飲食業では、一定金額を支払えば一ヶ月間、コーヒーが好きなだけ飲める。あるいは、一定金額を払って複数回ランチが食べられるというものもありました。

でも、お客様がいらっしゃる店舗なら、この施策はとりません。お客様も必要ないのに、そんなに無理してコーヒーを飲みにいかないでしょう。サラリーマンで列を作っているランチ屋さんは、サブスクは取り入れる必要はないはずです。

これら二つの現象を見ていて、オーバーストア状態なのだな、人口に比して店舗数が多すぎるのだと思いました。以前にも書きましたが、毎年50万人程度の人口が減っている状態です。人口に対して飲食店数が多すぎるのです。

そう考えますとコロナがトリガーを引いた側面はありますが、いずれ店舗数の調整局面が来るだろうという予見はできました。

コロナのせいにするのは簡単ですが、コロナ禍になる前の足元の数値はいかがだったでしょうか。どんな理由でその数値だったでしょうか。ここを客観的に整理しておくことが必要です。

ニュースを見てみれば、大手飲食事業でも、前年対比で大きく落ち込んでいる企業と80%程度に持ちこたえている企業があります。この違いは何でしょうか、お客様がなぜそれほど減らないのか、コロナという言葉を抜きに観察してみましょう。よく見ておくことが次の戦略につながります。

戦略など思いつかないというような方は、次のように考えてみてはいかがでしょうか。

まず、補助金関係は、面倒がらずにきちんと申請してできるだけ、確保する。

次にコロナ前の売上に対して例えば60%の売上でも成り立つ損益構造を作れるかどうかを考えます(厳しい地域でしたら、パーセンテージを下げてください)。その場合には、固定費である人件費と家賃を削減できるか、そして補助金でどこまでカバーできるかを同時に考慮する。

そして、緊急事態宣言状態が終わるまでの運転資金が確保できるか(補助金を今後の運転資金の補填に充てるようになるようでしたら要注意です)。

以上の三点で考えてみましょう。このアプローチは、飲食業でなくても活用可能です。

このような作業をしていく際に先日ブログでも申し上げたように、資金繰りが作成できるととても心強いものになります。経営者の感覚でなくて、客観的数値で捉えてください。

それでも採算が合わないようでしたら、事業をたたむ選択も前向きに考えましょう。もしかしたら、コロナのせいで事業をたたむのではなく、コロナのおかげで早く次の人生を歩めることになるのかもしれません。

オーナー経営者総合サポートとはなにか

私のホームページには、オーナー経営者を総合サポートとタイトルにあります。今日は、それがどのようなものかを説明してみます。

まず、「オーナー経営者」とは何かです。
「オーナー経営者」とは、(株式会社であれば)株券のほとんどをご自身または親族が保有し、且つ実際に経営に携わっている方です。

一般的には、個人(オーナー)が会社を作り、資金を会社に投入して、事業を起こします。
最初のうちは、事業規模も小さいので、すべて一人で業務を回すことができます。

事業が順調に進みますと、新たに事業所や支店を開設します。
事業によっては、お客様対応も増えてきます。
人員を増員するため、採用活動の頻度が増えてきます。
従業員数が増えれば、人事上の課題やトラブルも人数に比例して、発生します。

販売促進のため、集客サイトとも契約し、ホームページの更新もしなくてはなりません。
仕入の安定確保のため、取引者数も増やします。
さらに安心のためにもう少し銀行借入もしておきたいと思ったりもします。

このように事業規模が大きくなっていくにしたがって、やるべきことの分野が増え、また、高度化していきます。

優秀な経営者の方であれば、そつなく器用に何でもできてしまう方がたまにいらっしゃいますが、多くの方は苦手なものにも時間を取られてしまい、事業拡大にブレーキがかかりそうです。
(念のために書いておきますが、大きくすることがいい事業である、と申し上げているのではありません。小規模でも楽しい人生を送ることはできます。)

そこで、それまでの経験値から引き続きご自身で対応可能(得意)なものと、門外漢のため、対応が難しい(不得意)ものとに分け、門外漢のものは、思い切って、人に任せてしまえばいいのです。

では、一体誰に任せたらいいのか。世の中には、それぞれ専門家がいるので、個別にお願いしてもいいのでしょうが、それだと結局、専門家対応であまり忙しさは減りません。

また、企業がかかえている課題は、複数にまたがる事象も多く、専門家単独では、対応しきれないこともあります。

そこで、事業以外の領域を包括的に引き受け、経営者を一括でサポートしましょう、というコンセプトを「オーナー経営者総合サポート」と呼んでいます(場合によっては、事業そのものの支援をするケースもあります)。

言い換えると、その企業が持っているリソースでは足りないものを社外の機能と連携(協働)させることによって、ひとつの事業体として捉え、推進していきましょう、ということです。
このような機能を提供できる方は、あまりいませんが、もはや中小企業といえども、一人ですべて経営できる時代ではありません。

このブログでは、過去から現在までに多数の経営者を支援してきた私の経験にもとづいて、オーナー経営者が事業を前進させるための具体的なヒントや、課題解決の事例、気づかずに陥りがちな落とし穴とその対処法などを発信していきます。

また、オーナー経営者だけでなく、オーナー経営者をサポートする参謀、経営企画、M&Aなどを考えている経営中枢にいらっしゃる立場の方などにもお読みいただければと思います。