スモールコングロマリットの勧め

コングロマリットとは、それぞれに直接の関連をもたない複数の事業体を傘下に治め、多角的経営を行なう複合企業体のことです。中小企業が発展していくにあたり、このような手法を用いることができるのかということを考察します。

企業の存在意義は、営業利益をだすこととそれが継続できるかということの二つに集約されます。この二つを満たすために、いくつかの事業を文鎮型の企業群にすることによって、経営していこうということをコングロマリット経営と言い、それを中小企業にも活用しようとする試みをスモールコングロマリット型経営と呼んでいます。

既に二つ以上の事業を一つの企業で持っているならば、あえて会社を分け、事業会社群と一つの親会社に分けます。あらたに事業を始めようもしくはM&Aで取得しようということであれば、子会社を設立してそこで事業を開始しようということです。

会社を事業単位に分けることによって、事業≒企業となります。事業というのは、その企業の主たる事業のことです。では、企業と事業の差分があるとすればそれは何でしょうか。それは、事業以外で企業が行う活動のことです。これは管理業務のみならず、戦略策定や金融機関対応など事業の専門家ではできない高度な活動も含みます。わかりやすく言えば事業の責任者はCOO、企業の責任者は、CEO(およびCFO)といったところでしょうか。

では、企業を事業実体に合わせることによるメリットは、何でしょうか。

一つ目です。いくつか事業を束ねると事業以外の管理業務、経営業務が増えてきます。事業間の調整、複数事業にまたがる人員の管理、部門毎の数値管理などです。一事業の企業であれば、これらの管理負担はそれほど高くありません。事業を分社化しても親会社とのやり取りがあるので、管理負担は減るものではない、というご意見もあります。しかし、親会社の管理業務を事業会社に対するサービスととらえれば、管理業務が親会社の事業となり、親会社が各事業会社から報酬を収受できるようになります。子会社も社内ですべての管理業務を賄おうとすると管理業務のコストが重くなりますので、それは避けたいと考えます。したがって、親会社に管理業務を外注するのが合理的となります。ただし、最近は管理業務を専門に請け負う機能提供会社もあり、第三者に発注したほうがコストがかからないなら第三者に発注してください。

二つ目は、人事についてです。事業を一つにしてしまえば、ある専門領域を経営できるCOOをグループ内あるいはグループ外から見つけるのは、比較的容易です。これが複数事業にまたがる経営者を探すということになると急激に難易度は上がります。日本では、CEO機能を持つ人は、COOのそれと比してとても少ない印象です。また、COOは事業の責任者である事業本部長とは違います。いくら事業規模が小さくてもCOOは、部門長ではなく経営責任を負うのです。そこに重みややりがいの差があります。ここにも分社化のメリットがあります。

三つ目として金融機関対応についてです。こうして一点集中の事業の企業体になれば、金融機関からみてもわかりやすい企業にみえます。いろいろな金融手法があるといっても、現時点で金融機関は、事業に融資するのではなく企業に融資するので、金融機関から見てわかりやすい企業であることは大事です。複数事業を行なっている企業が新規事業のための融資を申し込んでも、実際にはその資金がどの事業に使用されたかは不透明です。借りる側も貸す側も融資の意図がぼやけていきます。親会社の保証など追加的な手続きを求められることもあるでしょうが、それでも融資対象が一事業というのは金融機関にとっても、仕事が楽です。

ちょっとイメージしてみてください。事業が違うからと言って、1社で10事業の資金をそれぞれ借りるのは難しいですが、10社それぞれが融資を受けるのは可能と思います。

(事業会社がまだ金融機関から融資を受けられるような状態でないときに親会社の資金を子会社に貸し付けるケースがあります。こういう時は他社への融資となるので、貸付金には利息が発生します。こういうことも企業の正確な損益構造の把握のためにもきちんと管理しておくことが重要です。)

最後ですがこれが最も重要です。スモールコングロマリットは、マクロのリスクを減らすことにプラスに働く企業体であるというメリットです。次のような事業体をイメージしてみてください。

①一企業一事業で10億円の年商

②一企業十事業で10億円の年商

③十一企業(親会社があるため)十事業で10億円の年商

事業の継続が企業の存在意義だと申し上げました。継続企業となるためには利益をあげることと共に様々なリスクを回避することも経営者の重要課題です。特にマクロリスクは、企業規模にかかわらず、ひとたび受ければその影響は大きいものとなります。一部の資金を膨大に抱えた企業以外、企業単独ではどうにも太刀打ちできない事象です。マクロリスクには、大きい国政転換、戦争、金融危機や新型コロナなどがあります。

では、上記①②③についてコロナを例にどんな状態がありうるのかその可能性を比べてみましょう。

事業にとって、コロナが追い風なのか逆風の事業なのかに一番大きく左右されるのは、①になります。中小企業が中堅企業へと規模が拡大していく過程で、①のリスクは高まります。放っておいても年商がどんどん伸びてしまうような事業は別として、スモールコングロマリットでは、あえて企業の規模を追求しない手法を取ることによってマクロリスクを回避しようとします(一つ一つの事業は、もろにその逆風をかぶることは規模によらず十分あり得ますが)。

次に②と③の違いを見ていきましょう。事業全体が追い風か逆風かによって受けるリターンとリスクは同じです。しかし、②の形態ですと事業毎の実態を把握するのが難しいです。事業部制を敷いて、厳格な数値管理していければ実態を把握することは可能ですが、それこそ高度な知識を持つ管理担当者が必要になります。銀行ローンの使途内訳はどうするのといった問題も発生します。

また、事業の先行きが不透明で事業を清算することを決めた場合に、③ですと比較的その判断は容易なものになります。当該事業ことだけを考慮すればいいからです。先ほど申し上げたように②は、事業の清算を判断するために実態を抽出することすら困難です(判断しあぐねて時間だけが過ぎ去ります。その間に他の事業も棄損し始めます。)。

このように各事業を別々にポートフォリオとして管理すれば、事業の開始、終了などの意思決定が容易になります。

ところでスモールコングロマリットのデメリットは、何でしょうか。上場などを目指すため、企業当たりの事業規模の拡大を志向するような場合は、向かないでしょう。また、企業毎にかかるコストは、企業の数だけかかりますので、その分増額となります(事業構造もシンプルなり、それぞれの企業の目的目標も明確になります。より利益を追求しやすい企業体になることで増分のコストを十分賄える収益が得られるものと思っています。)。

最後にスモールコングロマリット体制を敷く際に気を付けるべきことを挙げます。親会社が子会社を支援する、方針などの策定をリードする、高度な経営判断をするといった機能を発揮できないと親会社がただのコストセンター企業になります。各事業経営者では判断できない経営判断をするのが、親会社CEOの重要な仕事になります。

また、各事業は事業を一点に集中していますが、親会社が各事業間の連携や各事業の強みを把握してシナジーを生む橋渡しをする機能を持っていなければいけません。このような活動ができないと多角化経営がうまくいかなくなります。うまくいかないのはたいてい親会社の責任です。

繰り返しになりますが一事業に絞って企業体を小さくしておくことで、企業経営がしやすく、人が調達しやすく、始めやすくやめやすい、ということであれば、中小企業のオーナーでも事業数を増やしやすいのではないでしょうか。一つの事業を大きくしていけば企業規模に応じた管理、人材が必要になりますが、事業は小さいまま企業数を増やすのですから、企業規模拡大に応じたさまざまな経営手法を工夫しなくてよくなります。

事業のPDCAを早く回すことによって継続して利益を出す事業を模索していくこの手法は、先行きの不透明さが増す時代にふさわしい手法と思います。