第三者承継の状況

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことをいいます。 中小企業にとって、オーナー経営者の経営手腕が会社の強みや存立基盤そのものになっていることが多く、「誰」を後継者にして事業を引き継ぐのかは重要な経営課題です。

誰に事業を引継ぐのかにはついては、大きく3通りの方法があります。

親族に承継する

(親族外の)従業員等に承継する

上記以外の第三者に承継する

この第三者に承継することを通常、M&Aと言います。

では、どの位の件数の第三者承継が行われているのでしょうか。

各県に事業承継を促進する「事業引継ぎ支援センター」と呼ばれる国の機関があり、後継者不在の中小企業の事業承継を支援する目的で設置されています。
ここでの相談件数と実施件数を見てみましょう。

平成30年度の事業引継ぎ支援センターへの相談件数は7,768件、そのうち事業承継に至った件数は545件でした。成約率7%ですね。思ったより多くはない印象です。

もちろん、事業引継ぎ支援センターを利用しない事業承継もあるでしょうから、これ以外にも成約した数は、あります。

次に、会社がどれだけ毎年廃業されているか見てみたいと思います。つまり、引継ぎが可能であるけれども、されなかったであろう推定数を見ることにしましょう。

こちらは東京商工リサーチにそのデータがありました。

こちらを見てみるとおおよそ毎年4万社が廃業されていて、そのうち倒産によるものがおおよそ8千社程度と読み取れます。つまり、会社の調子が悪くないのに廃業せざるを得なかったのが年間3.2万社程度です。ものすごい数ですね。

その理由も東京商工リサーチのデータにありました。

廃業した代表者の年齢推移をみると、60代から70代で約70%を占めています。代表者が引退する際に、承継されなったために起きた廃業数です。

とても大雑把に申し上げれば健全な会社が高齢で身内や近しい人に引き継がれないため、毎年、3.2万社が消滅していることになります。

このような状況が起きるには、二つ考えられます。

一つ目は、自分の会社を売却できるという認識自体が高齢の経営者に少ない、ということです。

二つ目は、承継の情報は多くがネット上で流通していますが、高齢の経営者ほどそうしたメディアとの親和性が低い、ということです。

私の実体験で申し上げれば、50代の経営者ですと事業承継という方法があることを認識していらっしゃる方は増えてきていますが、70代ですとそのような情報があまり入らない環境にいらっしゃると思います。

したがって、事業承継の機会を承継する側からあげていくには、経営者のそばにいる金融機関あるいは顧問税理士によるサポートが極めて大事になってきます。

ところで、私の仕事の目的の一つに「残すにふさわしい事業を発掘、再生、成長軌道に乗せる」というものがあります。

全ての事業が残すにふさわしいのではないとは思いますが、いいものを未発見のまま埋もれさせたくないですね。

では、譲り受ける側がこれら事業を発掘するには、どのようにすればいいのだろうか、という課題が出てきます。

それについては、別の機会に書きたいと思います。今日は、こんなに引き継がれないのかということをご理解いただければと思います。

統計をみていたら、こんなものも見つけました。

総務省の統計によれば、15歳から64歳の生産年齢人口は2017年の7,596万人が2040年には5,978万人と減少することが推計されています。

これは、平均すると毎年70万人程度の人口減です。

毎年、高知県の人口と同程度の生産年齢人口が減っています。

これだけ人口が減少すると、承継してもどうやって再生、成長へ持ち込むことができるのだろう、また、潜在顧客数も減少していくという日本全体が抱えている構造的な問題もあります。こちらについても、承継後にどのように新しく事業を組み立てていけばいいのかという課題になりますね。